〜言えない秘密〜




人影まばらな図書室にて。

は二十センチしか書いていないレポートを脇に追いやってしまった。

レポート提出条件は「羊皮紙一メートル」

つまり。


「・・・ぜーんぜん、足りない。
 何度測っても二十センチだね・・・」


さらに言っておくと提出期限は今日いっぱいだ。


「無理かな、良さそうな本もなかったし」


魔法史の課題レポートなんて適当な資料を丸写しするのが一番いい。

だからこそ魔法史関連の書棚のすぐそばを陣取り資料探しに精を出したというのに。

ほかの生徒も同じことを思ったのか、役立ちそうな本がまったく無かった。

仕方がないのでほとんど覚えていない授業内容を思い出しつつ書いてみたのだが。

なにせ「あの」ビンズ先生の授業だ・・・春の陽気をも凌ぐ強力な催眠力に最初から

最後まで抗しきれたことはただの一度も無い。

大多数の生徒がそうであるように(そうでない生徒がいるのかどうかは不明だが)

授業開始五分でもまた現実世界におさらばしている生徒だった。

だからもちろんノートなぞとっているはずがなく、かわりにとってくれる友もない。

なにせその友もまた眠りの魔力に逆らえないのだから。

それでもその友は課題を言い渡された次の日にレポートを提出していた。

嫌なことはとっとと済ませてしまうたちのようだ。

は逆に嫌なことは後回しにしてしまう性格だった。














「わーぅ。なー、むーうぃー」

「・・・なに言ってんだ、お前」


やる気も失せて机に突っ伏して奇声を発しているとあきれたような声が降ってきた。


「わけわからんことをぶつぶつと・・・あ、コワレタ?」

「ほっとけ、ブラック」


誰かと思ってわざわざ体を起こしたがそれがブラックだとわかると・・・

しかもなんだか失礼な言葉も聞こえたような気がする・・・

またぱったりと机に伏せてしまった。

こっちは進まないレポート、見つからない資料に出ないやる気と

完全にだらけモードに入っているというのに・・・

は隣の席に腰を下ろしたシリウスにじとり、と恨みがましい目を向けた。

こいつ(ら)がいると疲れるのだ。

とりあえず今日は一人のようだが一人でも厄介なことには違いない。


「なんだよ、その目は」

「・・・目はどこまで行っても目なんだけど・・・」


じと目の睨みが気に食わないのだろう、むっとした顔で言ってくる。

シリウスの文句にこれまたかわいくない返事をしては仕方なく体を起こし、

椅子に座りなおした。必然的にシリウスから目を離すことになる。



「で、なにしてんだ?」

「・・・・・・ ・・・レポート。
魔法史。・・・一メートル」

「・・・これ?
 足りてねぇだろ。半分もないし」


シリウスは脇に押しやられていた羊皮紙に手を伸ばした。


「こんなもん適当に写せばいいだろ?」

「・・・ないんだもん。本が」

「・・・そうか。
 それはあれだな、俺が持ってるからだな。コレ」

「え!?」


突如見せられた本に驚いて思わず大きな声を上げる。

すぐに気付いて自分で口を押さえたが。


「ほ、ほんとに?」

「おー、だってコレ借りてさっき仕上げて出してきたトコ」

「貸してよ」

「どーしようかなー」

「・・・おい、こら」


渋ってみせるシリウスに「それはおまえのじゃないだろ!?」

と叫びたくなるのをこらえて頼んでみる。


「・・・貸してください。ブラックさん?」

「まー、別にいいんだけどな。ほれ」

「・・・・・・・・・」

「あ。そうだ、たしか・・・えー、・・このページ。
 写せばけっこう羊皮紙埋まるぞ。あとこことか」

「ソレハドウモアリガトウ」


ものすごく機械的に礼を述べてそれでも素直に教えられたページの文字を目で追い、

たしかに使えそうだ、と判断し転がしていた羽ペンを手に持った。




















それからしばらく羽ペンがインク壷と羊皮紙の間を行ったり来たりして

ちょろちょろと羊皮紙の黒い部分が増えてきた。


「お前っていっつもレポートとか期日ぎりぎりまでやらねぇよな」

「・・・んー」

「魔法史なんかいっつも寝てる」

「・・・んー」

「・・・・・・
 俺の言ってること聞いてる?」

「・・・んー」


まったく持って聞いていない。

の視線は本のページと自分の手元しか見ておらず、

シリウスの言葉がその耳を素通りしているのは明白だった。


「・・・(気付いて。ねぇよな・・・)」


はぁ、と小さく溜息をつく。

シリウスは頬杖をついて隣のの横顔を盗み見た。

邪魔になる髪を耳にかけて一心に羽ペンを動かしている。

視線は相変わらず本と羊皮紙の間を行ったり来たりしている。














本当はあの本はのために借りておいた物だった。

何気ない振りをして話ができたら・・・とか思っていたのだが

それがうまくいったのかいっていないのか。

真剣に取り組んでいる様を見ていると声をかけるのも忍びない。

悪戯に関してもそうだ。ジェームズ達はに悪戯を仕掛けてみればいいとか言うが

もしやってみて「本気」で嫌われたりしたらどうしようと思ったり。

人間は往々にして他人がやられてるのは楽しいが

自分に災厄が降ってくるのは遠慮したいものなのである。

それにコイツはけっこう気の強いほうだし頑固だし。かなり前に仕掛けた罠に偶然、

本当に「偶然」がひっかかってしまったときなど深く静かに怒りまくっていて

そのせいなのかいまだに自分達は苗字でしか呼んでもらえない。

まだ話ができるだけマシなのだろうと思うから

これ以上余計な(悪戯とか悪戯とか)ことはしたくなかった。

そして俺がここまで嫌われたくない、と思っているのをコイツは

絶対に知らないのだろう。・・・鈍いし。

大体の生徒が寝てしまう授業でも寝ていることをなぜシリウスが話に出すのか、

というのは実は気にしてほしいところだったりするのだが。

ちなみにシリウスは魔法史の授業も目を覚ましている。

なぜかといえばばれない程度に近くの席での寝顔を眺めているから。

結局授業のほうはさっぱりという事なのだが堂々と寝顔を眺めていられるのは

まさに至福のとき、というやつである。

けれどもちろんこちらが見ているだけというのは面白くない。

見るだけではなく、見てもらいたい。


「せめて。・・・もう少し・・・」














もう少しだけ。

自分を見てもらえたら。

もう少しだけ。

近づけたのなら。

いまの自分の最大の秘密。

いまの自分には言えないけれど。

いつか、きっと。

いつか。






END












◆後書き◆

ふぃ〜・・星沢様に贈る相互記念夢です。
そしてそして、A&Cのハリポタ部屋担当者蒼羽のデビュー作品です。
蒼羽はもっぱら一次創作書く人だったんですけど
この作品が蒼羽の処女作夢となるんですヨ。
星沢様には氷室のじゃなくて申し訳無いですけど、
確実に氷室のハリポタ夢よりいい!ですから。
人様に見せるなら良い作品を、人様に差し上げるならより
良い作品を。がモットーですので。

《氷室 阿燈》


相互記念夢有難う御座います!!!
シリウス夢で本当に嬉しいですv
片思いかぁ〜(遠い目)青春だね〜(笑)
こぅ・・・ズキュンv(ぇ)とくる話で感動しました!
この先ずっと・・・シリウスの「いつか。」の台詞が
頭でリフレインするでしょう(笑)
そして蒼羽様、デビューおめでとう御座います!
氷室様も文章力スゴイですが、蒼羽様もスゴイです!(尊敬の眼差し)
こんな素敵な作品を本当に有難う御座います!

≪星沢翼≫










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