「よしっ」



机に向かって作業をするは一人呟いた。
窓の外から聴こえてくるのは蝉時雨だけ。


「これお願いね」


そう言って隣にある鳥籠から自分の梟を出し手紙を渡した。
の梟はその手紙を優しく銜え開放された窓から
手紙を運ぶべく外へ飛び出した。


それを見送ったは、手紙を受け取った人物の
反応を想像し一人クスクス笑った。


地元の有名な花火大会まで数時間と迫った
夏休みのある日のことである。





〜花火はやっぱり〜





手紙の返事は思っていたよりもすぐに返ってきた。


手紙には簡単に





 すぐにそっちに行く!






と乱暴に書かれていただけだった。





間もなくしてリビングにある暖炉からボンッ!と大きな音がした。


「早いわね」


クスリと笑いはリビングに向かった。


「久しぶり、元気してた?」


「「!!!」」


返ってきた言葉は2人分。
の同級生で悪戯仲間である双子のフレッドとジョージだった。


「元気してた?じゃないよ!」


服に付いた煤を払いながら言ったのはフレッド。


「急に手紙送って!」


顔をゴシゴシしながら言ったのはジョージ。


「「しかも吼えメールで!」」


やはり双子。シンクロ率はぴったりだ。
そんなところをは感心してしまう。


「あはは、いつも悪戯してるお返し」


ねっ、と可愛くウインクされては
天下の悪戯好きの双子も押し黙ってしまう。


「それより、何さ」


「『大事な用があるから3時間以内に来いっ!』って」


フルーパウダーの残りがあって良かった、とフレッドもジョージも呆れる。


「今思えばかなり無理難題だったわね」


「「書いたのはだろ!!」」


「ごめん、ごめん。今日って事をすっかり忘れててさ」


「何かあるのかい?」


「いやさっ、うちの地元で有名な花火大会があるんだけどさ・・・
・・・2人と一緒に見たいなーと」


少し照れながら言う
フレッドもジョージもジーンと胸を打たれた。


「「ー!!!」」


「わっっと」


フレッドとジョージは今にもキスせんばかりにに抱きつき
それを受け止めるは少しよろめいた。


「行く!花火大会行くよ!」


「俺達もと一緒に見たい!」


「ありがとう!それじゃ支度しなきゃね」


だから離れてね、とはやんわりとフレッドとジョージから離れ
自室に向かった。


「「〜待ってくれよ〜」」


その後を追っかける少し哀れな双子。





数時間後。


「人気の花火大会だから本当は何時間前からか
場所取りしなきゃいけないんだけどー」


「えっ、じゃぁやばくない?」


場所なくなっているじゃないかと心配になったジョージだが
がジョージの頬を引っぱった。


「人の話は最後まで聞きなさい」


「はひぃ」


ようやくジョージの頬から手を離すと
下を向いて怪しく笑い出した。


「ふふふ・・・」


?」


頬を擦っているジョージを隣に、フレッドがを見た。


「とっておきの場所があるの」


急に顔を上げたは嬉しそうな表情をしていた。


「「とっておきの場所?」」


「花火が上がってからのお楽しみ」


双子がハモったがはまだ秘密と言っただけだった。





とっておきの場所と言ってが連れてきたのは
本来の花火大会の会場よりも少し離れていて数段高い丘の上。
周りは林だらけで少し向こうに花火大会の会場と川が見下ろせる。


「人がいないな」


フレッドとジョージが周りを見回しても自分達以外誰も居なかった。


「2人共、ここ座って。もうすぐ始まるから」


が促して3人でフカフカしている草に足を伸ばして座った。
すると時間も経たない内に、ドンッ!と大きな音がした。


そして暗くなり始めた空に大きな光の花を咲かせた。


「わぁ・・・」


「すげー」


「おぉ」


間を空けずに次から次へと夜空に打ち上げられる花火に
3人は口を開けたまま魅入っていた。


打ち上げ花火が一時止むと
河川敷沿いに筒花火が見えた。
近くの川に反射して幻想的な雰囲気だった。


それを見ながら、ポツリとが口を開いた。


「ここね、あまり人が来ない所でね・・・去年の花火大会に
たまたまここの近くを通ったら凄い絶景だったの」


人も居なかったしね、とが2人に言った。


「「最高の場所さ!!!」」


2人同時の感想にはクスクス笑った。


「でもちょっと不安だったのよ?」


「「不安?」」


「魔法界の花火ってこっちよりも派手じゃない?
日本の花火が気に入ってもらえるかな?ってさ」


は苦笑しながら言った。
再び打ち上げ花火が始まる。
3人の頭上には色とりどりの花火が打ち上げられる。


「そんなことないよ」


「ん?」


ふとジョージが言った。
打ち上げ花火の音が大きい。
でもには2人の声だけははっきり聞こえた。


「確かに魔法界の花火は派手だけど」

「こうやって静かに見る花火も嫌いじゃない」


風流って言うんだっけ?とフレッドが笑う。



「「何よりと見れる花火は最高さ」」



「ありがとう」



少し距離を短くした3人は
来年もここで見ようね、と硬く約束した。





花火大会が終った帰り道。
3人の胸にはまだ夜空に咲いた花火の余韻が残っている。


「家に帰ったら買っておいた線香花火やろう」


「線香花火?」


「そっ、地味だけどこれがまた良いのよ〜」


「面白そうだな」


「せっかくだから誰が最後まで落ちないか競争しよっか」


「俺は負けないね」


「俺だって」


「あぁー!私だって負けないもん!」


ついでに家まで競争だー!そう言っては走り出した。


「「あっ、ずりぃー!」」


フレッドとジョージがその後を急いで追いかけた。


花火が終って静かになった帰り道には3人の笑い声が響いていた。








END










◆後書き◆
魔法界の花火とか贅沢そうですよね〜。
でも祭りの時期に川原で花火して青春も良いですよ〜。







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