「やぁ、みんな。教科書はカバンに戻してもらおうかな。今日は実地練習をすることにしよう」


「闇の魔術に対する防衛術」通称「闇魔」の
最初の授業はルーピン先生のこの言葉で始まった。





〜ボガートと怖いもの〜





実地練習のため生徒はルーピン先生と共に職員室に向かった。
その途中ピーブズが悪戯するものだからルーピン先生が
実に爽やかに追い払った。職員室に着く頃には全員が
ルーピン先生を尊敬の眼差しで見つめるようになっていた。


「さぁ、お入り」


ルーピン先生はドアを開け、一歩下がって声をかけた。
がらんとした職員室には、たった一人、スネイプ先生が座っていた。
しかし、クラス全員が職員室に入ってくると、意地悪なせせら笑いを
浮かべながら立ち上がった。


「ルーピン、開けておいてくれ。我輩、できれば見たくないのでね」


そして、ドアのところでくるりと振り返り、捨て台詞を吐いて職員室を出て行った。


「さぁ、それじゃ」


ルーピン先生はさりげなく呆れた顔でに目配せをしてから
皆を部屋の奥まで案内した。



(いや・・・私の方を見られてもねぇ・・・)



先ほどのやり取りに溜息をつき、も皆の後に続いた。
そこには、古い洋箪笥がポツンとあるだけだった。
しかし、全員が揃いルーピン先生がその脇に立つと
箪笥が急に激しくガタガタ動き始めた。


「心配しなくていい」



いや・・・これは心配するべきじゃないのか。



何人かの生徒はそう心の中で思った。
しかし、ルーピンはなおも続ける。


「中にはまね妖怪ーボガートが入ってるんだ」



いや、だから・・・これは心配するべきなんじゃないのか。



今度はほとんどの生徒が心の底から思った。


「それでは、最初の問題ですが、まね妖怪のボガートとは何でしょう?」


この質問にいつもの通りハーマイオニーが手を挙げた。


「形態模写妖怪です。私達が一番怖いと思うものに姿を変えることができます」


「私でもそんなにうまくは説明できなかったろう」


ルーピン先生の言葉で、ハーマイオニーは頬を染めた。


「だから、中の暗がりに座り込んでいるボガートは、まだなんの姿にもなっていない。
箪笥の戸の外にいる誰かが、何を怖がるのかまだ知らない。しかし、私が外に
出してやると、たちまち、それぞれが一番怖いと思っているものに姿を変えるはず」


ネビルが怖いくてしどろもどろしているのを無視して
ルーピン先生は話し続けた。


「ということは、初めから私達の方がボガートより大変有利な
立場にありますが、ハリー何故だか分かるかな?」


の隣で突然自分に振られたことに戸惑っていたがハリーが思い切って答えた。


「えーと・・・僕達、人数がたくさんいるので、どんな姿に変身すればいいのかわからない」


「その通り。、つまりは?」


「つまり、ボガート退治をする時は誰かと一緒に居るのが一番良いってこと。
そしてボガートを退治するには笑いが必要になる」


「パーフェクトだ」


次は自分に来るだろうと予感していたは、その質問に難なく答えた。
ルーピンの笑顔には流石だねと出ていた。


「君達には、ボガートに、君達が滑稽だと思える姿をとらせる必要がある。
呪文はこうだ・・・゛リディクラス、ばかばかしい!゛」


「リディクラス、ばかばかしい!」


全員がいっせいに唱えた。


「そう。とっても上手だ。でも呪文だけでは十分じゃないんだ。
そこで、ネビル、君の登場だ」


まるでルーピンの言葉が死の宣告かのように、
ネビルは洋箪笥よりもガタガタ震えていた。


「よーし、ネビル。君が世界一怖いものはなんだい?」


ネビルは、キョロキョロと辺りを見回してから蚊の鳴くような声で囁いた。


「スネイプ先生」


その言葉に全員が笑った。
その瞬間は、その言葉を聞いたリーマスが一瞬
悪戯な笑みを浮かべたのを見逃さなかった。



(完璧に悪戯を思いついた顔になってる)



ネビルにおばあさんの服装を聞いている
目の前の腹黒教師を見ては思った。


「ネビル、ボガートが洋箪笥から出たら、スネイプ先生が出てくる。
そしたら、君のおばあさんの服装に精神を集中させながら
杖を上げてさっきの呪文を唱えるんだ。
すべて上手くいけば、面白いものが見れるから」


最後に小声でネビルにそう言っているのが聞こえた。
ルーピンは皆に向き直って言った。


「ネビルが首尾よくやっつけた後、ボガートは君達に向かってくる。
自分が一番怖いものを想像し、それをどうやったらおかしな姿に変えられるか考えるんだ」


部屋が静かになり、周りの皆はしっかり目をつぶっている。
ふと、は隣のハリーを見た。
他の人とは違い、目を開けていたハリーは難しい顔をしていた。
幸い目は合わなかった。



(ハリーの怖いもの・・・ヴォルデモートかな?)



隣のハリーをまたチラッと見ては思った。




(私の怖いもの・・・・・・・・・・・・・・・私は・・・・・・・・・・・・・・・・)






前にもあった。




目の前のリーマスやジョームズ達と一緒にホグワーツにいた頃。




悪戯の作戦で失敗して偶然逃げ込んだ部屋。




ボガートが居るとは知らずに面白半分で開けた箱。




ボガートの対処法なんてとっくの昔に知ってたはずなのに。




目の前のボガートが模った姿を見たら、頭が真っ白になった。




所詮ペーパー上の知識。実戦なんてなかった。




自分の怖いものなど爬虫類とか、そんなものかと思ってた。




自分が心の奥ではこんなものが怖いなんて思ってなかったのに。







「よくやった!」


教室の後ろの方での意識が戻ったのは、
既にボガートが跡形もなくなった時だった。
ルーピンは生徒を褒めた。


「ネビル、よくできた。みんな、よくやった。
そうだな・・・ボガートと対決したグリフィンドール生1人につき5点をやろう。
ネビルは10点だ、2回やったからね。ハーマイオニーとハリーとも5点ずつだ」


「でも、僕、何もしませんでした」


ハリーが言った。


「ハリー、君ととハーマイオニーはクラスの最初に、私の質問に正しく答えてくれた」



(やっぱり・・・分かっててやらせなかったんだ)



事情を知っていたから心配してに実戦をやらせなかったのだろう。
さり気なく言うリーマスを少しすまなそうには見た。



「今日はこれでおしまい」


皆は興奮してぺちゃくちゃ言いながら職員室を出た。
隣のハリーはあまり納得してない顔をしてた。


「ごめん、先に戻ってて」


は出口で、ハリーとロンとハーマイオニーにそう告げた。


「分かった」


浮かないハリーを連れて、ロンとハーマイオニーは出て行った。
数秒後、ロンとハーマイオニーの話が廊下から聞こえた。





「君ならなんになったのかなぁ?」




「成績かな。10点満点中で9点しか取れなかった宿題とか?」









つづく







◆アトガキ◆
久しぶりにUP!
そして久しぶりにちょっとだけ長い!(ちょっとだけ/笑)
そしてゴメンナサイ!話の流れでセブの女装書けませんでした!
さらっと話を進めるつもりで書いてましたが・・・
変な寄り道を少々してますね;
話の中に出てきますが・・・とボガートの話は
番外編とかで書けたらなぁ〜と思ってます。












戻る